政体の変化と國體維持
前回、聖徳太子の時代に日本は自主独立の道を歩み始めたこと、弓削道鏡による皇位簒奪事件が起こったこと、権力が天皇以外に移ったにも関わらず皇室が維持されたこと、を述べました。
(前回未読の方はこちら)
なぜ、藤原道長や織田信長は皇位を簒奪しようとしなかったのでしょう。そこには神話の時代から続く稀有な国柄があったからだと思われます。
家父長制
家父長制とは世界中で見られるものと言えます。「家長権(家族と家族員に対する統率権)が男性たる家父長に集中している家族の形態」ということであり、古くは古代ローマにその典型をみることができます。
日本も古代からずっと家父長制をとってきました。本家・分家という言葉を聞いたことがあるでしょう。この観点から考えると、天皇は日本の総本家と言え、天皇に弓引くことは総本家に弓引くことであり、そういう意味で皇室が大切にされてきたと考えることもできます。
ただ、これだけでは理論として弱い。戦国時代は下克上の時代であり、総本家を打倒したとしても時代の流れ、責められるものではなかったでしょう。しかし、そうはならなかった。
藤原氏と皇室との関係
この説は、とうさんが尊敬してやまない渡部昇一先生の著書の受け売りみたいなものです。
藤原氏の始祖は中臣氏。大化の改新で有名な中臣鎌足がのちに改姓し藤原鎌足となり、藤原氏の始祖となります。では中臣氏の始祖は誰なのか。中臣氏の始祖は「天児屋命(あめのこやねのみこと)」なのです。
「天児屋命」は古事記の神代にも記されている「天の岩戸」の物語の中で、岩戸の前で祝詞(のりと)を唱えた神様です。
ちなみに「天の岩戸」の物語とは、光り輝く“天照大御神(あまてらすおおみかみ)”が弟・素戔嗚尊(すさのおのみこと)の乱暴狼藉に悲しみ、岩戸の中に引きこもることから始まります。そうすると世の中に様々な禍が生じてしまいました。そこで神々は天照大御神になんとか出てきてもらおうと知恵を出し合い解決するというものです。
そしてその後も「天児屋命」は天皇家と深いかかわりを持ちます。
瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)の天孫降臨の際にも布刀玉命らと共に瓊瓊杵尊のお供として地上に降り立つのです。
中世では現代よりも、より強く出自を意識していました。自分の先祖を誇りに思っていたのです。そのような思考が強い中世で、いくら藤原氏が権力を得ようとも、祖先が付き従ってきた日本の「本家」でもある皇室に対し、反逆することなどありえなかったのです。
これが、日本が神話の時代と繋がっている証左です。日本では神話は空想上の話ではなく、現代に直結する話なのです。ですから、藤原氏は権力の絶頂に達しようとも、皇位を簒奪することなど考えることもなかったし、そのような藤原氏だからこそ、皇室も他の諸家も藤原氏の覇権を許したとも考えられます。神話からつながる、藤原氏の「誇り」を信頼したわけです。
武家の天皇との繋がり
平安時代終盤には天皇・上皇による権力争いが頻繁に起こり、問題解決を図るため“武力”を用いることとなります。ここに出てきたのが、桓武天皇の血を引く平家と、清和天皇の血を引く源氏。
まず平氏が権力の座に座り、源氏が奪い取る。源氏も内紛により滅亡し、鎌倉幕府の実権は北条氏が握る。北条氏は桓武天皇の血を引く。室町幕府、足利尊氏は清和源氏の血を引き、織田信長は桓武平氏の血を引くとされています(自称?)。
こう見てみると、武家に政権が移った以降も権力者は皇室とゆかりのある者がその地位についていることがわかります。
権威と権力
武家政権が天皇に求めるものは「権力の追認」でした。天皇が認定した「征夷大将軍」という地位にして、初めて日本を平定できる権力を持つことを許される、というものだったのです。
藤原家が神話の時代から天皇家に仕えてきた“誇り”と“分別”が、人々に安心感を与えたことと同様、武家政権が権力を握ることを「天皇の権威」をもって庶民に納得させる。これこそ武士が天皇に取って代わろうとしなかった理由です。天皇の認証があることこそが、権力者としての正当性を担保しているのです。
これは日本国憲法下でも同様です。天皇陛下が総理大臣以下、全ての官職を認証しています。
なぜ権威と権力が?
とうさんの想像ですが、日本は民度があり得ないほど高い国です。したがって、武力を持っただけの獣に支配されることを許すことはなかったでしょう。武力(力)のあるものが好き勝手するだけの世界なら北斗の拳の世界です。北斗の拳がわからないなら、イスラム国(ISIS)の世界と言っても良いでしょう。
日本国民は天皇という権威に守られ、権力者の好きにはできない。このことこそが“権威”と“権力”が分けられた最大の理由と考えられます。この方法こそが、国民を「しあわせ」にすることだと理解していたのです。これこそが日本の「國體」なのではないでしょうか。
次回は國體の危機、「元寇」についてです。
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